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1月 04

032【事例研究】営業利益17倍を実現したIT活用とは

中小企業のIT経営成功事例ということでは極めて有名な東海バネ(大阪府)について考えてみたい。当社は少品種大量生産が通常のビジネスモデルであるバネ業界にあって、多品種微量生産をIT活用によって高収益化した。
当社の受注生産は受注金額が平均5万円、平均ロット5個というものであり、一般的な営業方法、生産手配では費用対効果が悪い。国内に約3,000社あるというバネ製造会社のほとんどは、このような受注を受けず、少品種大量生産を行なっているという。

□ 東海バネのIT経営概要
当社は2003年頃までは全国3カ所の営業拠点に40名程度の営業マンを有し、営業できるところは営業し尽くした状態だった。在庫管理、受注管理、生産管理などの基幹システムは幾度かの改善を加えて十分なものになっていたが、売上、利益とも頭打ちであったという。
これを主に次のようなIT活用を行なうことで、多品種微量生産にマッチしたビジネスモデルとすることができた。

(1)Webサイトで製造のノウハウ、在庫情報などを惜しげもなく公開
このことで想像もしていなかった顧客を取り込むことができ、リニューアル後1年で100社、累計1,000社以上の新規顧客ができた。

(2)Webサイトからの注文を受け付ける仕組みの整備
顧客は自分の購入履歴を照会することが可能で、2回目以降の注文はすぐにリピートできるという、利便性の高いものとした。

(3)Webから受注したデータを基幹システムに直結
受注管理システム、生産管理システムにデータを直結させることで手配効率が高まり、コスト、迅速性が向上した。

これらを実施したのち、売上は30%向上、売上高原価率は19%ダウン、営業利益はなんと約17倍に飛躍した。営業効率が飛躍的に向上し、40人いた営業マンが10人で済むようになったという。

□ なぜ東海バネはITの有効活用ができたのか
以上のことは様々なサイトや雑誌などで紹介されていることであるが、ここでは当社が成功した要因について考えてみたい。
まず、IT活用以前に、大多数のバネ製造会社とは異なる多品種微量生産を選択したということである。大多数の同業が避ける市場を狙うニッチ戦略は中小企業の生き残りのための一つの選択肢ではあるが、通常は小さな市場だけに2003年当時の当社のように頭打ちとなることも多い。
二つめは、当社が提供する製品の潜在的需要層にWebサイトのコンテンツ増強により周知できたことである。下図は、販売が成立する条件を3つのだ円の重なりで表現したものだが、情報量豊富なWebサイトとしたことにより、図の「当社を知っている」部分の面積が広がり、「需要がある」部分との重なりが大きくなったとみることができる。

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三つめは、同じ図で、「選ばれる要素」の面積を広げる手法としてリピートオーダをし易い仕組みとしたことである。このことはまた、数年に1度しか注文をしない顧客層、つまりロングテール(*1)の取込みができるということでもある。ロングテールの取込みはITをもってして初めて経済的効果がでるのである。
四つめとして、多品種微量または多品種少量生産の場合、ITによる合理化効果が出やすいことが挙げられる。1回の注文が大ロット、高金額の場合、人間が手作業でさばくのに比較してITを利用してもさほどの効果の差は無いが、多品種微量生産販売の場合は、注文金額は低いが、件数は多いため、ITによる自動処理のコスト効果が現われ易いのである。
五つめは、ITの自動化原理に忠実なことである。部分部分のIT化では、途中に人手作業が入ることで、迅速性、効率性が損なわれることがある。Webからの注文を基幹システムに直結させ、顧客の操作から設計・生産開始まで不必要な人手介入を取り除くことによって、ITが得意とする自動化効果を享受したといえる。

このようにしてみると、東海バネは潜在的にITを使うことで効果がでるビジネスモデル的要素をもっていたとも言える。しかし、経営者がそのことに気がついて適切なIT投資を実行し、さらに初期の成功を一層のPR材料にするといったマネジメント面での卓越性も見逃すわけにはいかない。
(2012.4.18 執筆:山田一彦)

*1:ロングテール:販売数の少ない商品を多数取り揃えて、総量として高い売上を目指す手法であり、インターネットからの受注などITの活用が前提となる。
【参考サイト】
・IT経営ポータル http://www.it-keiei.go.jp/itjirei/case2008/case_tokaibane.html
・(財)日本電信電話ユーザ協会テレコム・フォーラム記事 http://www.jtua.or.jp/telecomforum/PDF/1111/201111hint.pdf