«

»

1月 04

003顧客効用と価格のギャップへの気づきはビジネスモデル見直しの第一歩

「儲けるための仕組み」ともいわれるビジネスモデル変革の起点の一つは、顧客が受ける効用と価格のギャップへの気づきである。効用の観点で再構成した新しい商品を提供するか、既存商品でも大幅に低い価格で提供できる仕組みを構築できるか、というのが新ビジネスモデル検討の基本となる。QBハウス、デル、アップルを参考に考えてみたい。

 

□ 伝統的な日本式床屋の常識を破ったQBハウス

私が顧客として「もっとこうならないのか」と思うことで、過去、その思いが強かったものに、床屋の料金と所要時間がある。主目的の髪の毛を切るだけならたったの15分程度なのに、シャンプーや顔そり、マッサージに耳かきまでセットになっており、待ち時間まで合わせると2時間。料金は4千円もする(今現在の値段)。

現在では、この不満を解消してくれる1000円で10分の床屋があちらこちらにできた。サービスを提供している大手のQBハウスは、1995年に創業して今なお大きく成長を続けている。やはり私と同じ不満を持つ人は相当数いたのである。

大前研一氏の「企業参謀」(初版1985年、講談社文庫)にも、髪を切るだけで20分3ドルのアメリカの床屋と日本の床屋の比較から、日本でもアメリカ式をやれば、著者(大前氏のこと)のような顧客を獲得できるであろうという記述があり、20年ほど前の当時、大きくうなずいたものだ。

 

□ デルの気づき

世界のパソコントップメーカーであるデルの創業者、マイケル・デルは、部品コストが600~700ドルのPCをIBMが約3,000ドルで売っていることをビジネスチャンスと見て起業した。IBMのやり方が不合理で改善の余地が大きくあると見たからだ。

 

□ スティーブ・ジョブズのやり方

ご存じアップルの創業者の一人であるスティーブ・ジョブズは「僕らは、まず、自分が欲しいモノは何なのかを把握する。そして、同じモノを多くの人も欲しがるかどうか、きちんと考えることがアップルは得意なのだと僕は思う。」(『スティーブ・ジョブズ 脅威のイノベーション』カーマイン・ガロ、2011年日経BP社)と述べている。

 

□ 効用の観点で再構成した新しい商品の提案

QBハウスの場合は、「散髪」という従来1セットになっていた商品を、「髪を切る」、「洗髪」、「顔そり」、「整髪」などの効用に分け、「髪を切る」ことを「散髪」に行く主目的と考える層だけに絞って短時間、低価格で提供するものである。

アップルのiPodは、携帯型音楽プレーヤーにインターネットでの単品の音楽販売という効用をセットにして提供することで、既存の商品の枠組みとは異なる価値を実現するものだ。従来、欲しい曲は数曲なのに、コンパクトディスクで買えば20曲もついてきて何千円も払わなくてはならなかった層には、1曲200円で買えるというのは大きなメリットなのである。

 

□ 既存商品でも大幅に低い価格で提供できる仕組みの構築

デルの場合は、IBMのパソコンビジネスを見て、その既存商品でも大幅に低い価格で提供できると考えた。それがデルのダイレクト販売モデルに発展したのである。デルはパソコンの製造、流通を熟知したうえで顧客の立場で考えることで、効用と価格のギャップに気づき、それを解消するアイディアを得たということだろう。

 

□ ビジネスモデルの検討では顧客価値の向上を考えたい

買い手にとっての価値は、効用と価格によって決まる。企業において、新たなビジネスモデルを考える場合には、効用そのものの対象範囲見直しも含めた、効用と価格の総和向上というポイントを押さえたい。

 

□ 競争原理が働かないところでは変革が進みづらい

しかし、法令などで新規参入が難しい業種の場合は、顧客にとっての効用と価格にギャップがあっても変革が進みづらい。床屋は組合組織が強い業種である。このため、QBハウスのような店が実現するまでに時間がかかったのではないだろうか。

法令や規制が顧客価値向上の邪魔をしている場合、法改正や規制緩和がなされれば新規参入が増え、業界全体でのビジネスモデルの変革が進んで、需要も増加するものと思われる。

 

□ 私が選ぶ床屋

さて、私の床屋通いの話に戻るが、実は今、基本的には近所の普通の床屋に行くことにしている。髪を切るだけなら1000円の価値かも知れないが、精神面での付加価値も含めた価値を感じることで、毎回3900円支払っても満足している。ゆったりとした時間の中での顔そりや洗髪やマッサージ。それにも増して馴染みになったマスターと地域の話をするのが楽しいのである。人それぞれ大切に感じる効用が異なるから、様々なビジネスモデルが成り立つのだと実感する。

(執筆:山田一彦)